「顔真卿ー王羲之を超えた名筆」(東京国立博物館特別展)の感想

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2018年12月に斉白石の展示を見た時に、 2019年1月16日から顔真卿の特別展があることを知り、また博物館に足を運びました。展示初日を避け、混雑する週末も避けて、平日に展示を見てきました。

今回の展示では各時代の書家の作品が、時代背景、書かれた時のエピソード、特筆すべき点などと一緒に紹介されていたので、書道の知識があまりない私でも楽しめる内容でした。

これから特別展の鑑賞に行く方、鑑賞には行けないけれど興味がある方に向けて、私が鑑賞した感想を書いてみます。ちなみに、私は書道を習っていたわけではないので、まったくの素人的な感想です。

感想

◇書体の変化変遷が作品とともに紹介されていてわかりやすい

最初の展示室に入ると左側に書体の変遷の概要チャートがあり、右側には各書体で書かれた作品が展示してありました。書体の変遷を大まかに理解できるのでよかったです。

有名な書家の作品には書家の名前とイラストがついている

書家のことを知らない私のようなタイプでもその目印があることで、「なるほど、この人が有名なのね。」と注目できるのでよかったです。

書家の性格などについても紹介があり、どんな人なのかのイメージも湧きやすかったです。

一部の作品の説明書きの上には、一行でわかりやすいまとめがついている

説明書きが高尚すぎたり専門的すぎたりすると、とっつきにくくて、わかりにくいと感じてしまうんですが、そうならないような工夫がされていて、作品を身近に感じることができました。例えば、単に「王羲之を手本にした」とかではなく、「時代の最先端を行く王羲之を参考にした」といった表現なので、より理解しやすかったです。

故宮博物館から来た「祭姪文稿」の展示方法がすごく良い

うまく表現できないんですが、展示室の天井から「祭姪文稿」の一部を朱色の背景に印刷した垂れ幕 (春聯的な感じのもの) がたくさんあり、中国っぽさが出ていました。

また、 「祭姪文稿」の原本の横に、大きなパネルがあり、「祭姪文稿」 の見どころを詳しく説明していました。 展示全体は、中国語の簡体字だけなのですが、 「祭姪文稿」は台湾の故宮博物院の収蔵品なので、パネルの説明は簡体字と繁体字が併記されていました。

この作品の特徴は、感情が高ぶっている様子が書体から感じられるところなので、そういった点をパネルでは詳しく説明しています。

また、もう別のパネルでは、 「祭姪文稿」を所有していた歴代の収集家が、追加で書き加えたコメントに対しても解説をしていて、すごく勉強になりました。

人気の作品なので、見るときは平日でも少し並びます。ただし、きちんと鑑賞者の動線を確保できるようにテープも用意されていました。休日はもっと並ぶんだと思います。鑑賞中も係員の方に「立ち止まらず、徐々に移動してください」 と言われてしまうのでゆっくり鑑賞はできないですが、少しの間でも、実際の作品を直接見れたのは良かったです。

また、私は音声ガイドも利用したのですが、この作品の朗読に感情がこもっていてとてもよかったです。

◇中国人と日本人の鑑賞の仕方の違いを感じた

中国でも台湾でも話題になっているだけあり、鑑賞の時には中国語で作品の感想を話している方も多くいました。中国語ネイティブだと、作品を読んでそのまま理解できるのでうらやましいです。(もちろん中国人にとっても古典なので、全部わかるわけではないと思いますが)中国人の鑑賞の仕方は、きちんと作品の文字を読んでいる感じがしました。日本人は全部の漢字を読めないので、どうしても「字体を見る」鑑賞方法になるかなと思います。同じ文章を違う字体で書いている作品があったのですが、ある中国人鑑賞者が「あ、これとこれ同じ内容だ。」と言っているのを聞いて、「確かにそうだ。」と気が付いたりしました。

◇書道ならではの表現も学んだ

私は書道に疎いので、書道用語もこの展示で知ることができました。学んだ2つの用語をメモしておきます。

「能書(のうしょ)」字を書くのがうまい人のこと。

「狂草(きょうそう)」草書体がさらにのびのびした自由な書体になっていること。

書家の方々が長生きですごい

早くに亡くなった書家の方もいますが、75歳に書いた書なども展示されていました。当時の一般的な人に比べると、長生きだなと思いました。

あまりに高齢になると、手が震えたりしてしっかりした文字を書けなくなると思いましたが、書家の方たちは、ますます長年の経験が生きてよい文字を書けているようでした。

印象に残った作品

「祭姪文稿」

この展示の目玉作品であり、本当に見に来てよかったと思いました。下記の表現が印象的でした。

傾卵覆(鳥の巣がひっくり返されて卵が落ちる様子)城が攻められて、とうとう守り切れなくなった様子を表現。

嗚呼哀哉(ああ、なんと悲しいことだろう)すごく悲しかったことが伝わってくる表現です。

この作品のデジタル版は、台湾の故宮博物院のサイトでも公開されています。興味がある方は、サイトのトップページの右側の検索窓で「 祭姪文稿 」と入力して検索してみてください。

「全草千字文」

千字文というのは、中国版の「いろは歌」に近いもので、一文字もかぶらず違う漢字を使って書かれた文章です。内容は結構壮大で多岐にわたっています。中国の子供たちはこれを暗記するそうです。そのように有名な千字文を書いた作品を何点か、生で見れたのがよかったです。

「紫紙金字金光明最勝王経巻第九」

この作品の特徴は、紫色の紙に、金色の文字で書かれているところです。特別感があり、色合いも優雅な感じがしたので、この作品が好きになりました。

「麻姑仙壇記」

麻姑(まこ)という爪の長い仙女について書いた作品です。音声ガイドで、この爪の長い麻姑(まこ)に背中をかいてもらうと気持ちいいいだろうということで、「まごの手」の語源になったという説明がされていたのが印象的です。その後、東洋館の中国の展示で麻姑が描かれているお皿を鑑賞して、「これが
麻姑かぁ!」と思いました。確かに爪が長く描かれていました。

「記泰山銘」

この作品のみ撮影OKです。美術館の展示室一面にドーンと展示されていて、他の作品とのスケールの違いが際立っています。巨大な石にこんなにたくさんの文字を書く(彫る)のはすごい労力だったと思います。実物が残っているので、中国で実物をぜひ見たいと思いました。

最後に

今回、この展示を見たことで、書道に疎い私ですが、書道についていろんなことを知れました。「もっと知りたい」という思いと、「綺麗な文字を書きたい」と思いが出てきたので、ちょっと実践してみたいと思います。

今回の展示で、台東区立書道博物館の所蔵品も多く展示されていたので、その博物館にも行ってみて、他の展示物も見に行きたいなと思いました。

また、ミュージアムショップで、顔真卿の書体の書道練習帳(お手本と、水で書ける半紙がセットになったもの)と筆を買ったので、家でも少し書いてみようと思います。やはり、美文字を書くには練習するしかないですね。

展示をこれから見に行く方は、東洋館にも関連の展示があるので、忘れずに見てください。東洋館の展示は、一部作品を除いて撮影可なのが嬉しいポイントです。

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